ばあちゃんの麦茶

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急行待ち、駅のホームで景色が滲むのは暑さのせいだろう。

やはり営業の仕事は自分に向いていない。

明日辞表を出そう。もう限界だ。田舎でのんびりしたい。ばあちゃんの麦茶が飲みたい。

ようやく急行列車が来たようだ。



蝉時雨に川のせせらぎ、風鈴の音、蚊取り線香の匂い。
縁側で寝てしまっていたようだ。

ゆっくりとした時間。

そこは人生の休憩にはおあつらえ向きに思えた。

「飲んだら帰んな。」
そっけなくばあちゃんはコップを置く。

カラン

麦茶の氷が鳴る。

すっきりした苦味の先に、麦の甘味が滲む。

カラン

グラスに残った氷が鳴る。

「あんたがくるにゃまだ早いよ」



病院で目を覚ました僕。
医者の話によれば、ホームから線路へ落ちて頭を打ったらしい。

長い夢を見ていた。内容は思い出せない。

やけに喉が渇いていた。

無性に死んだばあちゃんの麦茶が飲みたい。
その他
公開:21/07/19 01:06
更新:21/07/19 01:17
夏休みシリーズ

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

新シリーズ「人喰い病院」はじまりました。

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皇帝
報道

マイペースに描いていきたいです!

SSG1周年!

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https://twitter.com/Karatsu_a

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