7月20日

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夏、私は始発列車が入線するまで駅のホームでひとり本を読んで過ごす。
実家は駅前にあって、祖母が元気だった頃は早朝から理髪店を開き、鉄道会社から委託されたきっぷを販売する小さな窓口があった。地元の人は車を使い、学生は通学定期、だから窓口を使うのは鉄道好きの旅人だけ。
両親は理髪店を継ぐことなく都会に出て、ここには祖母と私だけが漂っている。
以前は一日二便のバスがやってきた駅前に今はバス停はなく、自動販売機と電話ボックスがあうんの配置。
誰のいたずらか、その電話ボックスの中にとうもろこしが実るようになって数年が経つ。最初は雑草だと思っていた葉っぱが今は樹海のような繁みを生み、立派なとうもろこしを実らせる。電話を使う人はいないし、そもそも繁みの中に電話があるとは誰も思わないだろう。
7月20日。毎年私の命日には犯人から身代金を要求する電話が鳴る。それは鈴虫のようにこのボックスから聞こえてくる。
公開:21/07/20 15:09

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