一炊の夢

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昔々あるところに、じさまとばさまが二人で暮らしておった。
ある時、ばさまが一人で飯を炊いていたところ、戸をどんどんと叩く者がいた。
「だれかえ?」
男の声がした。
「旅の者です。申し訳ないが、しばらく休ませてほしいのです」
ばさまが戸を開けると、若者が一人、釜を持って立っていた。
若者はしばらく休むと、ばさまにこう言った。
「この釜は、夢を叶える釜なのです。どうです?今ならお安くしておきます」
ばさまは直感的に、この釜を買うまで、男はずっとこの家に居座るつもりだと感づいた。
ばさまはため息をつくと、その釜を一つ購入した。
「これを抱いて寝れば夢が叶いますよ」
若者はそう言うと、足早に帰っていった。
ばさまは帰ってきたじさまに事情を説明した。
愚直なじさまは、言われたとおり釜を抱いて寝た。
ばさまは眠り込んだじさまを眺めながら一人つぶやいた。
「これは、一炊の夢じゃのうて、一睡の夢じゃなあ」
その他
公開:21/07/16 17:11

かさ( 愛媛 )

来年以降のいきかたが決まりましたヽ(=´▽`=)ノ

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