雲を消す

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幼い頃、私は少し年上の兄によく遊んでもらっていた。
「お兄ちゃん、あれやってよ」
「いいとも、よく見てろよ」
そう言って、兄は空に浮かぶ雲を一つ指差す。するとしばらくして、雲は消えてなくなった。
「すごいすごい!」
私が喜ぶと、兄は得意げな顔をした。
「お兄ちゃん、あの黒い雲も消せる?」
「多分な、やってみようか」
嵐になりそうな、黒く巨大な雨雲も、指差すだけで簡単に消えていった。
「お兄ちゃん、すっごい!!」

「二人とも、早く来なさい!」
急に母に呼ばれ、階下へ降りる。
「避難警報が出たの、学校まで行くわよ」
「どうしたの?」
私が尋ねると、母はこの世の終わりのような顔で言った。
「すぐそこで、大きな雨雲がその場で消えるほどの雨が降ったの。大変な雨よ、まるで海が落ちてきたみたい。ここも危ないの」
母の話を聞き、不安になった私は兄を見た。兄はおもちゃを見つけた時のような顔で空を見ていた。
ファンタジー
公開:21/07/21 18:00
更新:21/07/18 17:29

お弁当係

2021年7月、投稿開始。
小説を読むのが好きですが、書くのも楽しそうで始めてみました。
読んでいただければ幸いです。
 

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