丘の上で溶けた蜃気楼

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いじめを苦に自殺して死んだはずの君の面影を見た気がして、僕は急いで丘の上まで走った。

「君に最後、どうしても言えなかった言葉がある。ごめん……。僕がもっと早く気づいてあげていれば……君は自殺なんてしなくて済んだかもしれないのに……。本当にごめん」

後ろを向いた君はこちらを振り返り、僕を見て黙って微笑んだ。
僕は泣いていた。これは罪の意識で泣いているのか、君に会えて嬉しくて泣いているのかどっちなのか分からない。いや、どちらでもあるのかもしれない。涙で視界がぼやけてしまい、君の顔がはっきりと見えない。

「あなたのせいじゃないよ。悪いのは私。だから自分を責めないで」

彼女の声が聞こえてきた。
僕は彼女の元に走っていき、彼女を強く抱きしめようとしたが、僕の手はスッと彼女の体をすり抜けた。

「もう行かなくちゃ。……ありがとう。元気でね」

丘の上で蜃気楼は、溶けてなくなった。
公開:21/07/15 20:34

富本アキユ( 日本 )

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・SSG投稿作品1500作品突破

・作詞を担当
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