最速の愛

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中学2年生の夏、少年は彼女に振られた。
「もう一度振り向かせてみろ」と彼女は言った。
少年は悲しみ、悩んだ。

次の春に少年は気付いた。
気持ちが離れるよりも速く走れば良かったのだ、と。
少年は決意した。

少年は勉強して陸上部の強豪高校に入学し、100mの選手になった。
速くなりたい一心で毎日練習に励んだ彼の成長は凄まじかった。
高校2年生にしてインターハイで優勝、様々な代表選手に抜擢された。

大学に進学しても活躍は続き、日本記録を更新し続けた。
世界と戦える日本人として名を馳せた彼はもう、控えめな少年などではなく、日に焼けた肌に白い歯が眩しい、日本最速の青年になっていた。
青年が街を歩けば誰もが振り返った。

ある夏の日の午後。
テレビでオリンピック陸上100m決勝を見つめる母娘がいた。
「あの選手はね、お母さんの昔の友達なんだ」

合図が響き、少年は全てを振り切るように走り出した。
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公開:21/07/15 09:42
更新:21/07/15 09:47

TAMAUSA825( 東京と神奈川 )

登場することが趣味です。

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