お先にどうぞ

飲み会後、帰路についていたら、妙な音がしてきた。
こつこつ、こつこつ。
最初は気にしていなかったが、だんだん大きくなっていく気がした。背筋が少しずつ冷たくなっていく。
思い出したのは、道を歩いていると後ろからべとべとという足音を立ててついてくる妖怪の話。
いなくなってもらうには「あること」をする必要がある。「あること」とは…
道の端に寄った。頭を下げて、片手で道の先を示し、言った。
「お先にどうぞ」
………
何の音もしない。確か、こうするとあの妖怪はべとべと音をさせて走り去っていくんじゃなかったか。
…よく考えたら、あのこつこつという音、私が今履いてる靴の足音じゃないか。
酔っていて気付かなかった。その場で一人で大笑いしてしまった。
そうしたら、こつこつ、こつこつという足音が、私の家の方に向かって歩いていくのが聞こえた。

その日以来、私の足音は私が歩くよりも先に鳴るようになった。