緑の計画

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 苔むした屋根を雨が叩き、室内にはこもった音が響いている。

「今年も異常気象です」
 梅雨入りは年々早くなり、梅雨明けは遅くなった。梅雨の期間が長くなり、湿度は上昇。ジメジメと蒸し暑い。過ごしにくい気候であるが、適応した生物にとっては繁殖のチャンスである。

「公園の苔が満開を迎えています」
 苔に花はない。しかし、時期になると胞子を放出するため、サクという器官を伸ばす。近年、苔ブームが到来し、人々は花のようなサクの不思議な形状を愛でる様になった。傘を差し、胞子の香りが漂う公園に出かけ、苔の花見を楽しんだ。
 苔の愛護団体も誕生し、保護が訴えられるようになった結果、建物は苔に覆われ、街は緑一色となった。

 私はノートに一つの仮説を記した。
「苔の胞子は人間の脳に作用し、自分達が繁栄できるように人間を操っているのではないか」と。

 ジワ…
 背中に生えた苔がまた少し広がったのを感じた。
その他
公開:21/07/11 06:09
更新:21/07/11 06:34

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
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