無人駅にて

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定年退職を迎えた翌日、何となく家に居辛さを感じた儂は散歩に出かけた。
目的地などない。これまで家と仕事場の往復しかしてこなかった儂がどこへ行こうと言うのだ…気が付けばいつも通勤で使っていた無人駅を前に立ち尽くしていた。
ベンチに座り、ため息を吐く。周りには誰もいない。これまで人でごった返しているホームしか見た事がなかったので新鮮だった。
ふと、駅の隅に目をやるとタンポポが咲いているのに気づく。子供の頃は儂も家の軒先に咲いたタンポポを毎年楽しみにしていたものだ。もしかしたら毎年咲いていたのかもしれない。それに今日、気付かされた。
「やっぱりここでしたか」顔を上げると呆れ顔の妻がいた。「暇なら買い物に付き合って下さい」
儂の手を引く妻。まるでタンポポの綿毛になった気分だ。妻の溜息に吹かれ、儂はこれからこの町を知っていく事だろう。
ちなみに今は花のように黙して凛と咲く妻の美しさに惚れ直している。
公開:21/07/12 20:35

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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