五円玉

私が思い出せる一番古い記憶は、父から五円玉をもらう記憶だ。
お金は大事にしなさいと掌に乗せてもらった。それ以来、幼い私の宝物はこの五円玉だった。

小学校に入り、初めて財布をもらった。小さな小銭入れだった。
中学で初めてデートに行った時、端数を出し合って、貰ったお釣りの五円玉。いつまでも使えなくて、見るだけでドキドキしていたっけ。
受験の時、大学にご縁が有りますようにって家族で五円玉をお賽銭にしていた。
大学に入って、初めてもらったバレンタインは先輩が笑いながらくれた五円チョコだったな。

会社に入って、結婚して。産まれた息子が今年、私が初めて五円玉をもらったくらいの年齢になる。電子決済だったり電子マネーだったり、小銭の扱いが面倒だと言われる世の中になった。
幼い私の宝物だった五円玉も、いつか無くなる日が来るのかもしれない。私は息子の掌に五円玉を乗せて、お金は大事にしなさいと伝えた。