黄昏散歩
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なつはよる、あきはゆふくれ、だったっけ、と、唐突にハラダがいう。夏と秋のあいだ、夜と夕暮れのあいだ、学校と俺たちの住んでる団地のあいだを歩く。夜と夕暮れのあいだの時間のことを、黄昏時っていうんだって。得意げなハラダ。ほら、今は街灯があるけど、昔はこのくらいの時間は相手の顔が見えなかったから「誰そ彼」…っていうようになったんだって。へえ。知らなかったな。本心からそう言っただけなのに、嬉しそうに「たそがれどき」ってなかいい響きだよなあ……なんて柄にもないことを言ってるから、顔が見えなくても、満面の笑みを浮かべていることがわかる。俺の言葉にこんなに喜んでくれるやつを、俺はこいつ以外に知らない。俺たちの横を、乾いた笑い声の大学生たちが通り抜けていく。俺も黄昏時、好きかもしれない。小声でつぶやいてみたが、吹き抜けていった風が、揚げ物のにおいと一緒に俺のつぶやきをどこかへ運んで行った。秋が近い。
青春
公開:21/07/08 13:29
つまりわたしたちははめられていたんですよ。
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