抱き枕夜間飛行

抱き枕を買った。ベロア生地の肌触りの青い三日月。橋と橋を繋げると輪っかにもなる便利な抱き枕。
「お願い、今日は寝たい・・・」
不眠に悩まされていた私は、藁にもすがる思いで抱き枕にしがみついた。
滑らかな手触り。柔らかい抱き心地。ふわふわとした感覚に微睡むと、気付けば私は夜空を漂っていた。
「ああ、夢か」
夢なら仕方ない。三日月の抱き枕に乗って私は雲の切れ間を縫って飛ぶ。眼前には満点の星。天の川。夏の大三角。デネブは天の川を渡り、アルタイルとベガは川のほとりに佇んでいる。

そうだ。今夜は七夕だ。あんなに好きだった星のお祭り。すっかり、空も見上げなくなっていたなあ。

ぽこんとお腹の中を蹴られた。日に日に存在感の大きくなる我が子を撫でながら、声を掛ける。
「お外に出たら一緒に見ようねえ。だから、おやすみ。また明日」
抱き枕の青い月。夜間飛行の夢を見せて、ゆっくり布団に落ちていった。