聞こえるひと

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午前4時。裏山でアカショウビンが鳴いている。
私は職場である監察医務院の仮眠室で、その伸びやかで美しい声に目が覚めた。時計を見ると横になってまだ30分しか経っていない。連日の当直勤務で頭がぼんやりとしている。
この部屋の窓には福利厚生で鳥の声を通訳する機能が備わっていて、あと1枚、1枚しかないの、とアカショウビンの叫びが聞こえる。
何が1枚なのだろう。
すると私の心も訳されたのか、
「パンツが雨で洗えないの」
とアカショウビンは答えた。
確かに雨は7日降り続いている。しかし鳥がパンツなど穿くのだろうか。
そこへ県警から緊急解剖の依頼が入る。現場の捜査官によると、身元不明の遺体がヤリイカのにぎりを握りしめていて、そのヤリイカの死んだ時刻を知りたいという。
もうないの。ないのよ。私にはヤリイカの最後の声が聞こえる。彼女もまた私と同じように替えのパンツがなくて死んだ。
帰りたい。もう帰りたいよ。
公開:21/07/06 16:12
更新:21/07/06 16:45

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