神経保護効果あり

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彫刻家はアトリエの胸像を前に腕組みをして唸っていた。見た目にはほぼ完成している。依頼された日本神経学会会長の彫像である。だが完成にはほど遠い。彫刻家は考え込む。何かが足らない。
モデルの会長からお茶の誘いを受けた。彫刻家は会長が営む医院に訪れた。案内されたのは診察室。
「ご足労をかけた。こんな場所で別に君を診察しようなんてつもりじゃないんだよ」
会長と話すうちに彫刻家は気がついた。この臭いだ。アルコールとホルマリンと消毒液が混じった臭い。像に欠けているのはこの臭いだ。
会長は根気を詰めすぎないようにとドリンク剤をくれた。早々に彫刻家は医院を出てアトリエに向かった。粘土の塊を前に、あの臭いを形にすれば良いのだ。どうしたら・・。手元のドリンク剤を一息に飲むと椅子にもたれて目を閉じた。気持ちが安らぐ。あの臭いのなかにふわふわと漂う気分だ。いい気分だ。ドリンクには神経保護効果ありと書いてあった。
その他
公開:21/07/07 10:46

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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