無脳症

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せっかく授かったわが子が、無脳症と聞かされたときの悲しみはいかほどだろうか。
医者が説明するには、人間らしい知性を生み出す大脳は委縮し、生命維持に必要な脳幹のみ残っているという。
息子はそのまま医者が引き取った。死産の扱いにして、医療資源として活用しようというのだ。ようするに物を言わないドナーだ。
息子は強制的に延命され、成長させられていった。その姿は、まるで豚のようで悲しかった。
だが、息子を手放した以上、私にできることはない。
成長した息子は、徐々にパーツを奪われていった。ある日は肝臓を、ある日は両眼を、ある日は皮膚をはがされた。肝臓だってもうほとんど残っていない。臓器の行き先が決まるたびに、私は機械的に承諾書にサインした。
そして、ある日、ようやく医者が私に待ち望んでいたことを告げに来た。
「心臓の行き先が決まりました」
これでようやく死ねる。息子と私に最後の安息を。
ホラー
公開:21/07/07 09:14

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