短冊の男

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 七夕は嫌いだが好きだった。俺は七夕に対してある十字架を背負わされている。時として、その重荷は崇高で甘美であり、また時として、砂を噛んでいるように空しかった。
 だが、俺がどう思おうと、俺の遺伝子には何の影響も及ぼさないらしい。すべきことは、現状を受け入れる努力と、受け入れられる工夫だ。それが正しい自然の摂理というものなのだそうだ。
 毎年七月。新型コロナ禍以前であれば、俺は俺の短冊を俺にぶら下げて、学童保育や老人ホームを巡回していた。
 俺の短冊は俺の身体に生えてきて、俺の皮膚で出来ている。だから、願い事を書くときは、俺からぶら下がったまま、タトゥーマシンで彫らねばならないのだが、こういう面倒臭さが、案外好評だった。
 この短冊は二週間ほどで萎びて落ちるので、俺はそれを鞣して、カードケースやペントレイにして、願い主に贈っていた。
 タトゥーマシンは正直痛い。だがそれは確かに、俺の痛みだ。
その他
公開:21/07/06 21:13
シリーズ「の男」 七夕祭り

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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