天童(あまわろ)の皿

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七夕節の夜の事。天河の畔で織女様は困っていました。
降り続く雨に天河の嵩は増し、自力で渡れそうにありません。常なら天帝の遣わした鵲(かささぎ)達が、翼の橋を架けてくれるのに、今夜に限って一羽も見ないのです。
年に一度の逢瀬、諦めかねて行きつ戻りつしていると、河中から声をかける者があります。
「渡してやろか」
天河の底に棲む天童(あまわろ)が、黒い嘴を笑ませています。
悪戯者の天童が、鵲達を驚かしたと察しはついたものの、どうしても河を渡りたい織女様は、天童の背に乗りました。

天童の水かきが流れを掻く度、雫が衣を濡らします。
「寒くないか」
いいえと織女様は答えました。
自分を運ぶ天童は、もっと寒く重かろう。これが精一杯の償いだと織女様は気付いたのです。
「傘、やろか」
降り止まぬ雨に差し出されたのは、天童の頭の皿でした。
「ありがとう」
織女様の目を零れた一滴が、皿に小さな星を点しました。
ファンタジー
公開:21/07/05 12:11
七夕祭り 牽牛織女・河童・ごん狐 童話リミックス

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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