高霊化社会

4
4

「お世話になります」
 若い夫婦が入居してきた。ペコリと頭を下げた二人に私は目を細める。これから二人は様々な苦難に突き当り、立ち向かい、乗り越え、成長していくのだろう。私は生活の場を提供できること、それぞれが紡ぐ物語を見届けられることに幸せを感じている。

 ここはある森の中。土と木の香りの混ざった空気が、木々の隙間から差し込む陽の光に照らされ、心地よい空間をつくっている。
 先ほどのヒヨドリの夫婦は私の肩に巣をつくるようだ。子育てが始まると賑やかになる。

 樹齢2000年を超えた木は神になるらしい。
「現在、天界は高霊者が増加し神様で溢れています。今期から対象者には天界に行くか現世で天寿を全うされるか選べる制度が導入されました。よく検討するようお願いします」
 そう使者は言い、去っていった。

「なるほど。高霊化社会か」
 老いた大樹は、少しだけ笑うと、ゆっくりと枝を伸ばし始めた。
ファンタジー
公開:21/07/01 06:27
更新:21/07/01 06:28

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
https://twitter.com/otaro_twi
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容