うどんは生きている

暖簾をくぐると、ダシと薬味の香りが鼻をつく。
ポスター「うどんは生きている」そんな謳い文句を流し見る。
注文をする前からよだれがこぼれる。
日差しの弾ける窓の外をちらりと見る。
もう暑いよなあ
「ざるうどん、一つください」
一瞬の間
『兄ちゃん、ざるうどんはやめといた方が良いぜ』
「なんでです？」
『看板見たか？』
うどんは生きている
「さっき見ましたよ」
『だからだよ』
なにがだよ
「ざるうどん！」
僕はお腹が空いてるんだ
渋々といった様子で、おじさんは湯の中からうどんをすくい、冷えた水にさっと入れると、とんっとザルの上に乗せた。
「おいしそう…」
つやつやとし、弾力が見て取れる麺を箸でつまむと、ちゃぷんとつゆの中に潜らせる。
次の瞬間
”へくしょいっ”
ぶーっと顔やら服やらにつゆが飛び散った。
『言わんこっちゃない』
「へ？」
『うどんは生きてるんだ。ザルにしたことで湯冷めしたんだよ』