ボールは友だち

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アパートの隣に住む少年はいつも一人でいた。
「友だちとは遊ばないのかい」
「僕の友だちはボールなんだ」
薄汚いバスケットボールを持って少年は駆け出す。

会社帰りの夜道。ガード下の空き地からボールの突く音。
金網越しに覗くと、バスケットボールリングと少年がいた。
少年がボールを放ってネットを揺らす。
ボールは友だち、か。
そのとき。
「交代しようか」少年の声。
奇妙な光景が広がる。
少年が持ったボールから同い年くらいの少年が飛び出し、ボールは萎む。そのまま萎んだボールに少年が吸い込まれると、ボールはまた膨らんだ。
飛び出してきた少年がシュートを放った。
何かとんでもないものを見てしまった気がして逃げるように踵を返す。

翌日の朝早く、少年の父親が訪ねてきて、慌てた様子で息子が昨夜から帰らないと訴える。
僕は昨日少年がいた空き地に足を運んだ。
ボールだけが寂しく置き去りにされていた。
ホラー
公開:21/06/29 17:12
更新:21/06/29 19:49

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