無人駅から

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卒業式の帰り、いつもの駅はいつも通りに僕を迎えてくれた。
高校三年間、毎日の様に通った駅。電車は一時間に一本、駅舎は木造に瓦屋根、駅員室は開かずの物置と化している。古くておんぼろで、田舎の象徴みたいな駅だった。
「今日で終わりかも知れないな」
開けっ放しの改札口を通りながら、誰もいないのにつぶやき、よけい淋しくなった。
大学は使う駅が違うから、当面ここへ来る事はなくなる。そのうち免許を取って車でも買えば、もう電車にも乗らないかも知れない。

駅舎の隅、少しガタついたベンチに腰かける。手の届く壁の辺りに、角の欠けた伝言板が打ち付けてある。
『卒業おめでとう』
白いチョークの文字は、今書いたみたいに新しかった。
「お世話になりました」
書くものがなかったから口で言った。
頭を下げて駅を出、最後に振り返る。
『三年間ありがとう。元気で』
『おめでとう』に追記された返事が、うっすらにじんで見えた。
その他
公開:21/06/28 21:14
月の音色 月の文学館 テーマ:無人駅にて

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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