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酷い大雨の中、前を走る一台のバイクが突然、視界から消えた。水没した路上にモーセの海割りのようなくっきりとした轍(わだち)だけを残して。
危ないーー私は咄嗟に急ブレーキをかけた。バイクの前輪が滑り、ハンドルもブレーキも思い通りにならなかったが、転倒は免れることができた。消えたバイクは、目の前の茶色に濁った大きな水たまりの中に落ちてしまったようだった。
「早く助けないと」と私は必死の形相で周囲に呼びかけた。野次馬が集まり始めたが、誰も気に留める様子はない。中にはニヤニヤと笑みを浮かべる人もいる。そうこうするうちに誰かが言った。
「誰も死んじゃいない。あそこは川向こうに抜けられる近道なんだ」
「そんな馬鹿な」と私。でも、振り返ると後続のバイクも次々に水たまりに吸い込まれていった。
「雨季の今だけ現れるトンネルなのさ。信じないなら自分で試してみるといい。あんたに飛び込む勇気があれば、の話だが」
危ないーー私は咄嗟に急ブレーキをかけた。バイクの前輪が滑り、ハンドルもブレーキも思い通りにならなかったが、転倒は免れることができた。消えたバイクは、目の前の茶色に濁った大きな水たまりの中に落ちてしまったようだった。
「早く助けないと」と私は必死の形相で周囲に呼びかけた。野次馬が集まり始めたが、誰も気に留める様子はない。中にはニヤニヤと笑みを浮かべる人もいる。そうこうするうちに誰かが言った。
「誰も死んじゃいない。あそこは川向こうに抜けられる近道なんだ」
「そんな馬鹿な」と私。でも、振り返ると後続のバイクも次々に水たまりに吸い込まれていった。
「雨季の今だけ現れるトンネルなのさ。信じないなら自分で試してみるといい。あんたに飛び込む勇気があれば、の話だが」
ファンタジー
公開:21/06/25 16:49
更新:21/07/19 05:49
更新:21/07/19 05:49
2022年から米国在住。
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