迷惑な消火栓

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唐突に消火栓が出現した。しかも路面の真ん中に。車は渋滞。誰かが警察に通報した。警察官と消防署員と水道局員がやってきたが、みんな首をひねるばかり。
一メートルほどの消火栓が立つ道の地下には配管も何もない。栓を開けると泥水が噴き出た。勢い弱くじょぼじょぼと流れる泥水に紙片が混じっている。紙切れを取ってみると文字が読めた。「…通知書」「納税…」とか「可及的速やかに…」など、役所の書類の破片のようだ。

市役所の資料保存係の係員はいつものように不要書類を破棄するためにシュレッダーのある上の階まで行こうとした。通路のコーナーに見慣れない円筒物がある。以前にあった灰皿のようだが、真上からよく見ると暗い闇ばかりの深い穴。円筒を持ち上げようとしてもびくとも動かない。係員が手にする紙をちぎって入れてみた。紙片はひらひらと落ちて消えた。深い深いこの先がわからない穴だ。係員は書類を数枚ちぎって円筒に投げ入れた。
その他
公開:21/06/25 11:17

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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