Ⅰ.058 ペルビエの迷宮~喪失~

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 思えば主人もわたしも気づくのが遅かった。
 逼迫した攻防を演じていたつもりであったが、徐々に蒼猫との距離が開いていたのだ。明らかに速度をあげている。お遊びは終わりということか。見物者のいない場所を選んで逃げている事からもそれが伺えた。
 速い。
 重力に引かれる事を忘れているかのようなその身のこなしは、敵ながら見事と言う他なかった。距離は確実に開いていっている。
「待て!」
 主人は思わずそう叫んでいた。
 待てと言われて待つ怪盗など、現実にも虚構にもいない。後に主人が最も悔やんでいたのもこの台詞を発したことだったな。
「くそっ」
 とうとう、我々は怪盗を見失ってしまった。奴が最後に曲がった角に差し掛かるとそこには見物者もいない静まり返った小路とひしめき合うように家々が並ぶだけだった。
 しかしここは確か、細い楕円形の私道となっており、出入口は我々が立つここしかないのだ。
ファンタジー
公開:21/06/24 21:25
ファンタジー 連載 怪盗 探偵

Arujino( 東京都練馬区 )

まずは、こんにちは。

練馬区で活動中の、趣味の絵描きです。

小説・脚本なども執筆してます。

【番号なし】 用語・設定解説

【Ⅰ】 連載作品『WonDer BroS』 探偵と怪盗の対決が娯楽化した世界での物語。

【Ⅱ】 短編連作『Story Of Dri(P)Party』

【Ⅲ】 連載作品『根源悪の牧場』 戦争による差別と弾圧に支配された世界での物語。

【Ⅳ】 連載作品『ドライワンダーに遣う』

【001~】 短篇集『short TaleS』
 

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