「煩悩の力は凄いんでっせ」

T願寺の住職にしてITベンチャー社長という異色の肩書きを持つG氏が逮捕される際の言葉である。

１ヶ月前。
寺の本尊にあたる仏像型スーパーコンピューター『正覚』の性能が世界１位に輝いたと発表された。
報道陣にG氏は饒舌だ。
「仏像はあくまで顔です。パソコンでいうケースですわ」
「正直良い環境と思えないのですが？」
「山奥なんで涼しいんですよ。修行しまっか？」
「率直に高性能の秘密は？」
「…煩悩を少しばかり組み込んどります…ハハ！」
注目が加熱すると、きな臭い噂が流れ出した。
檀家に多額の金を貸し返せないと家の人間を寺の差し出させるという。
そして警察が動く決定的な情報がリークされた。

警察は家宅捜索に入ると仏像の裏側から正覚の内部に入った。
そこは大型の機械が連なり『ソレ』はあった。

培養液に浸された人の脳みそが幾重にも連なっていた。
捜査員は『煩悩』という正覚の本当の名を見つける。