鈍臭い男

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男はニヤリとした。
格好の獲物を見つけたからだ。
前から歩いてくる不幸を背負った、陰気臭い男。
「今回の獲物はアイツにしよう」
舌舐めずりをして男は消えた。

暗闇の中、男の目はギラギラしていた。獲物がもうすぐやって来る。
何ともいえない高揚感にうち震えながら、獲物の影を確認すると、男は持っていた相棒の鎌を獲物に向かって振り下ろした。

「ぎゃあぁぁ!!」

悲鳴と混在した叫び声を上げたのは男の方だった。
あるはずの獲物の姿は何処にもなく、代わりに首と胴が離れた男の姿があった。

「なっ…どうゆう事だ!!なぜ俺が…」

事の状況を理解できない男は、野犬の格好の獲物になっていた。
忍び寄る恐怖と絶望。成す術もない男の武器は言葉だけ…

「ぎゃっ!!来るな!!あっちに行け!!」

役に立たない武器はしばらくすると発することを止めた。
悠久の時を狩り続けた男の最後を、鎌は静かに見つめていた。
ホラー
公開:21/06/26 12:52
更新:21/06/26 22:32

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