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「まったく、お前は本当におっちょこちょいなんだから……!」

 再会した夫の第一声は、そんな言葉だった。

「えへへ……ごめんね。帰る途中で迷い込んだ山道が細くってさ、落ちるかなあと思ってたら、落ちちゃったんだよね……」
「ごめんねじゃないよ、まったく!」

 夫は腕の力を緩めず、その目からは熱い涙がこぼれ落ちる。私も謝りながら、涙が溢れるのを感じた。

 ここは空の上。40年ぶりに会った夫はおじいさんになってしまっていたけれど、彼は変わらず私を思い続け、寿命で死んだあと、いの一番に会いに来てくれたのだ。

「唯は? 健太は? 元気にしてる? 二人ともまだ小さかったのに、大変だったでしょ」

 私がそう言うと、

「そのうちあの子たちも来るさ。そしたらきっと君に会いに来る。それまで二人で待っていよう」
「うん」

 私はうなずいた。夫がもう決して離すまいというように、私の手を握りしめた。
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公開:21/06/21 18:00

黒澤伊織( 日本 )

黒澤伊織といいます。2人組で小説を書いています。ショートショートは好きで、よく書いていますので投稿していこうと思います。ちょっと皮肉の効いた話とか、ダークめの話、また逆にお笑い系の話とかを作ります。よろしくお願いします!

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