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                                ターミナル駅で見慣れない階段。近道ではないかと下りてゆく。薄暗い通路がつづいて、明かりが見える。そこはカウンター、ホテルのクロークみたいだ。清楚なユニフォームの女性がにこやかな声で、
「いらっしゃいませ」
「ここは何ですか?」
「遺失物係です。札はお持ちですか?」
「ちょっと迷ってしまって」
「では遺失物の札番号は覚えていらっしゃいますか」
「そうじゃなくて、遺失物はないんです」
「遺失物を遺失されたのですね」
「いや、はじめから遺失物はないんです」
「では遺失物をお渡しできません」
「失くしたこと自体がないんです」
「遺失の記憶を遺失されたのですね。お手伝いします」
いぶかしく思って彼女の顔をまじまじとみると何とそれは私の妻ではないか。これは悪い夢か。
「では、俺の遺失物って何?教えてくれよ」
「遺失物を遺失された方は、階段を降りて下の階の遺失物遺失係まで。係の者がお待ちしております」
    「いらっしゃいませ」
「ここは何ですか?」
「遺失物係です。札はお持ちですか?」
「ちょっと迷ってしまって」
「では遺失物の札番号は覚えていらっしゃいますか」
「そうじゃなくて、遺失物はないんです」
「遺失物を遺失されたのですね」
「いや、はじめから遺失物はないんです」
「では遺失物をお渡しできません」
「失くしたこと自体がないんです」
「遺失の記憶を遺失されたのですね。お手伝いします」
いぶかしく思って彼女の顔をまじまじとみると何とそれは私の妻ではないか。これは悪い夢か。
「では、俺の遺失物って何?教えてくれよ」
「遺失物を遺失された方は、階段を降りて下の階の遺失物遺失係まで。係の者がお待ちしております」
        その他
      
      公開:21/06/24 15:39      
    2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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                           たちばな
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