忘れない果物

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ここ、南国ベトナムは日本ではめったにお目にかかれない物珍しい果物にあふれている。マンゴスチン、ランブータン、バンレイシと挙げれば切りがない。毒々しい派手な外観からは想像もつかない繊細な味に出会うことも少なくなく、仕事に疲れた時はオフィスを抜け出し、近くにあるローカル市場に足が向く。

ある日、顔なじみの売り子のおばちゃんが薄汚れた腰巾着の中からピンポン玉サイズの茶色の球体を取り出し、私に勧めてきた。
「ホプっていう私の地元でしか採れない果物なの。食べると頭がよくなるよ」
言われるがままに持ち帰り、帰宅してから皮を剥いて食べてみる。すると、急に眠気に襲われた。

目覚めると、目の前にとっくの昔に亡くなった祖母が微笑みながら立っていた。
「おばあちゃんのこと、久しぶりに思い出してくれたのかい?」と祖母は嬉しそうだった。

その果物は私の眠っていた記憶を吸収し、化学反応を起こす触媒だったのだ。
ファンタジー
公開:21/06/24 00:30
更新:21/07/19 05:51

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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