6月のカプリチオ

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主操縦を任される俺は少し緊張していた。
海上のキララは海水の積載を終えようとしていた。
「お、今日が初泣きか新人」
整備を終えた轍さんが隣へ並びキララを見下ろす。
「轍さんは本物を見たことあるんですよね?」
汗を拭い轍さんは空を仰ぐ。
「子供の頃にちょっとだけな」
「6月に稼働が多いのは昔の名残りなんですよね。研修で習いました」
「なるべく自然にあったものは残そうって事だ。今回のプランは?」
「…恵みです」
「じゃ気楽にやりゃいい。いつもより入念に整備しといてやった」
肩を叩き轍さんは戻っていった。
300X年
地球の気象は機能しなくなり『新気象庁』が科学技術により気象現象を管理する。
乱雲型飛行船「雲母」が疑似気象予報により各地の空へ飛び立つ。

新人の初泣きには故郷の空を担当させる粋なしきたりがある。
眼下には慣れ親しんだ故郷の町並みが広がる。
力む指先で「梅雨」のスイッチを入れた。
SF
公開:21/06/19 14:28
更新:21/06/19 16:40

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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