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接骨醫院を出たところで小柄で華奢な男性に、「お手伝いいたしましょうか?」と、声をかけられました。わたしは少々お転婆をして右腕を石膏ギプスで固めていただいたところだったのです。その方が、わたしのショルダーバックを自分の肩に掛けると、それは腿にまで届きました。ぶかぶかのウエストの白麻のツータックのズボンを、ベルトで締め付けているものですから、まるで巾着袋のようでしたし、開襟シャツの袖がよほど余っていて、坂の途中で、通りの反対側を歩いていた制服の老人に敬礼をした折には、体毛のほとんどない腋や、肋骨の浮き出た胸が覗けてしまうほどでした。
汗をふきふき、軍港を見下ろす坂を上り詰めると、その方はわたしにショルダーバックをお戻しになり、そうしてギプスへ赤いマジックで「売約済」と書くと、坂を掛け下っていきました。
わたしは接骨醫院の先生に、これをどう掛け合えばよいのかを、ずっと考えているところです。
汗をふきふき、軍港を見下ろす坂を上り詰めると、その方はわたしにショルダーバックをお戻しになり、そうしてギプスへ赤いマジックで「売約済」と書くと、坂を掛け下っていきました。
わたしは接骨醫院の先生に、これをどう掛け合えばよいのかを、ずっと考えているところです。
その他
公開:21/06/20 19:47
シリーズ「の男」
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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