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どこかにあるという猫沼。
あたりを木々におおわれた薄暗い沼。首をまわせば見えるくらいの広さで、ねっとりとした深緑色の液体で満たされている。

その沼に、人間は忘れたいものを捨てに来る。罪やら感傷やら後悔やら。そして誰も、自分さえも、その沼に二度と足を踏み入れることはない。

その沼は、人間だった猫が人間に戻れる場所だという。
月夜の晩、誰も見ていないときに沼に飛び込めば。
猫の飼い主の娘は、猫がかつて人間だったことを知っている。でも猫は水が嫌いで、決して入ろうとしない。だからいっしょに沼に入ることにした。
抱きしめてけっして離さない。
戻れますように戻れますように。

沼から猫を抱いてでてきた娘は、ずぶ濡れの身体をひとふりしてあたりを見回した。その高さに目を細める。
手の中には震える猫。
娘は猫をなめると、にぁと啼いて歩き出した。
ファンタジー
公開:21/06/17 21:36

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