月下にて

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獣の息切れだ。
竹しか目に入らず、何処から聞こえるのか検討がつかない。なぜか反響しているのも癪にさわる。
たった今携えている得物は、九尺ほどの槍のみ。虎が現れると知っていたなら鉄砲を持参したところだ。

倒竹が割れる音。
やっと分かった……真後ろにいやがる。
すかさず身を翻す。そこには、ギラギラと輝く不気味な双眸があった。
奴は漆黒に身を沈め、瞬きひとつしない。
動きを見逃さんと目を見開く。
……思いの外大きい奴だった。
それもそうか……子虎が狩りをするものか。
覚悟を決めた。それを知ってか知らずか、大虎が闇の中から這い出てきた。地面を踏みしめる度に枯葉や落枝が鈍く音をたてる。
腰を落とし、愛槍を持ち直す。
大虎が止まる。きっと間合いに入ったのだろう。姿勢が恐ろしいほど低い。
観客は月のみ。高みの見物で笑っているに違いない。
……時間が止まり、梢が騒ぐ。

――――虎が跳ねた。
その他
公開:21/06/15 21:17
更新:21/06/15 21:27

加賀守 崇緒( 猫屋敷 )

気まぐれなハチワレ猫です。
頭抱えながら文章を考えてます。
スイカと芋と肉と魚に、お米とお酒、ブドウが好き。
よろしくお願いします。

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