復水器清掃員

俺は復水器の清掃員。一般には復水器は熱交換器のことをいうが、この復水器はそうではない。作業場は河口が海に接する汽水域。復水器で海から遡る塩水をきれいに淡水に戻すのである。
かつて海は人間の故郷だった。人間の体液は海水と成分が似ているとか。しかし今の人間、合金、セラミックスの骨格とカーボン繊維と強化プラスチックと各種センサー素子と集積回路からなる人間にとって海水は百害あって一利なし。塩分で身体は錆びてしまう。海からは他にカリウム、ナトリウム、鉄分、有機物、プランクトン、海棲動植物の死骸など浮遊物が川に上ってくる。今では沿岸には住宅も工場もない。海は有害汚物の集積場。どこの汽水域でも復水器で汚染の海水から守る。
俺はいくつもの濾過装置を使い、不純物をきれいに除去して焼却する。予定作業が終わり交代要員に引き渡すと俺は淡水シャワーとエアシャワーを浴びて金属と電子機器の身体をきれいにして家に帰る。