時計のない国

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時計がない国があった。砂漠のなかの小さな王朝である。豊富な穀物や果物が自然に満たされ、馬や牛はどこかからやってくる。日中は会話を楽しみ、夜には酒を飲んで歌って踊る。地域の弦楽器は豊かな音色。温暖な気候で屋外で眠る習慣、人々は星空を仰ぎながら眠りにつく。室内で眠るものはたいてい愛を営んだ。明日の予定を考える必要も習慣もなかった。
外部との交易はなかったが、王朝には多くの異種民族が住んでいた。王が気まぐれに周囲の部族に兵を連れて襲い、略奪してくるのである。略奪するのは若い男女。彼らは奴隷となるが労役はなく、美味しい食糧に恵まれて誰も故国に帰りたいとは思わなくなる。住人も奴隷もみんな時を忘れて楽しい生活を謳歌していたのである。
そして王朝は消滅した。関連する戦争や天災の記録はない。時計も暦もない王朝の存続期間も滅亡理由もまったく不明である。そもそもそんな王朝が存在したのかどうか…。
その他
公開:21/06/14 16:25

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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