ファイト！

『おはようございます。ナビゲーターの富田林(とんだばやし)です。今日も安全運転でお願いします』
友人から譲り受けたオンボロ車から妙に良い声が聞こえた。「少しクセのあるナビを入れた」と言っていたか。ナビに行き先を入力する。
『目的地は○○霊園、所要時間は一時間十五分を予定しています』
スピーカーから流れる80年代の洋楽は、自分にはさっぱり分からなかった。
『次の信号を左です』
はっとしてウィンカーを出して減速する。
「あ、やべっ」
ナビ通りに左折した先は生活道路で道はどんどん狭くなる。
「おい、富田林」
『はい、富田林です』
対向車が来ないかひやひしながらゆっくり進む。
「こえーよ、この道」
『ファイト！！』
中島みゆきの『ファイト！』が流れ出す。
視界が開け、眼下に墓地が見えた。
「来たぞ、富田林。こんなもの遺しやがって」
『ファイト！』
助手席であいつが笑った気がした。