2
4

 幸は汚い転校生だった。赤いランドセルも、Tシャツもスカートも、顔や手足まで全てが薄汚れている。そして、悪臭。

 僕は後ろの席から、幸の頭に消しゴムの屑を投げた。べっとりとした幸の黒髪は、消し屑を捉えて離さない。調子に乗って何度も投げていると、突然幸が振り返った。前髪の間から、表情のない大きな黒目が覗いている。真っ黒な空洞。僕は慌てて目を逸らした。

 その日の帰り道、僕は幸を尾行した。貧しいに違いない幸の家を、こっそり覗いてやろうと思ったのだ。

 寂れた商店街を一人歩く幸。僕は隠れながら後を尾ける。やがて幸は、人気が無い路地裏に入った。なぜか地面にしゃがみこむ幸。そして突然、マンホールの蓋を持ち上げた。
「ただいま」

 幸がマンホールに消えてどれくらい経っただろう。我に返った僕は、恐る恐る、幸が消えたマンホールの重い蓋を持ち上げた。
中を覗くと、そこには、真っ黒な空洞だけがあった。
その他
公開:21/06/11 14:45
更新:21/06/12 15:37

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容