武隈親方
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引退したはずの豪栄道関が職場のエントランスでシコを踏んでいる。受付にはジャンクション誕生日おめでとう、という横断幕があって、私はサプライズに息を呑んだ。足が震えて変な汗が出る。でも耐えた。きっと誰かがカメラをまわしているはずだから。ぺたん。ぺたん。大理石の床で元大関が重みのあるシコで私の誕生日を祝ってくれている。あぁ心と体が弛緩するのがわかる。ジャンクションというのは秘書室で働く私のあだ名で、社長や社内中枢に繋がる接続点みたいな意味らしい。私は相撲が好きで、とりわけ豪栄道関のファンだった。今は引退されて武隈親方になったけれど、私の愛は変わらない。その武隈親方が出社した私の目の前で、現役時代と何も変わらないスタイルで私のためだけにシコを踏んでくれている。
私は着ていたスーツやヒールを脱ぎ捨てて武隈親方の前でありがとうのシコを踏む。そのときだ、中央階段を行司姿の社長がゆっくりと降りてきたのは。
私は着ていたスーツやヒールを脱ぎ捨てて武隈親方の前でありがとうのシコを踏む。そのときだ、中央階段を行司姿の社長がゆっくりと降りてきたのは。
公開:21/06/11 11:08
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