お茶の水ディープ

　拾ったマスクだが、背に腹は替えられなかった。
　スマホを持っていないと特典を受けられなかったり、精算が滞ったりするだろ。あれと同じだよ。だからマスクに二次元バーコードかＩＣチップを埋め込んでおけばいいわけだ。個人情報とマスクは深い所で結びついているからね。
　などと呟きながらＪＲ中央線御茶ノ水駅の改札口を抜けたところで、口中に違和を覚えた。
　しっかりと閉じていた唇の間に力ずくで分け入っきた分厚く柔らかな、はっきりとした意思をもった舌ベロが、わたしの上下の前歯の歯茎の隅々にまで触れてきたのだ。
　マスクの舌ベロ？
　おぞましいような、だが、うっとりとするようなその分厚い筋肉の蠕動運動に、思わず数か月振りの吐息を漏らした隙間から、その舌ベロはついにわたしの淡いピンクの舌ベロに触れ、表や裏や側面を（ああ、舌ベロには側面なんてものがあったのだ）擦り付け合った。
　もう、立っていられなかった。