ハンガーマン

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 地球の温度が50℃を超え、水着が正装になった頃、そいつは現れた。
『ハンガーマン』。

 民家に忍び込み、持参の針金ハンガーに様々なものをぶら下げては姿を消す。
 ある家では収納に困っていた眼鏡が、別の家では雑然と放置された雑誌が、オブジェのように吊り下げられ、目立つ所に飾られていた。

 最初はマスコミも面白おかしく取り上げた。クリーニング屋と服屋が衰退し、捨てられたハンガーの逆襲だとかなんとか。

 しかし、侵入された民家の誰もが怒りを顕わにするほど、ハンガーマンのオブジェにはセンスが無く、世間がハンガーマンを支持することはなかった。

 月日が流れ、最後のハンガー製造会社が倒産した頃、一人の老人が針金ハンガーで首を吊った。
 荒川の河川敷。大昔の正装である燕尾服に蝶ネクタイ姿で、だらりと伸びる老人の肢体。その姿は神々しいまでに芸術的で、彼をハンガーマンだと思う者は一人もいなかった。
その他
公開:21/06/12 14:33
更新:21/06/12 15:35

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