国破れて田圃あり

10
8

二十二世紀になると、気候変動と核戦争の影響で地球上のほとんどの地域が砂漠化し、干上がった。
酷暑と日照り続きの広大な荒れ地をなんとか潤し、肥沃な土地に戻そうと考えた人類の生き残りは、デジタル化された江戸時代の古い文献を解読し、泥田坊をアグリテックとバイオテクノロジーを駆使して甦らせた。
泥田坊とは、顔が単眼の老人で、田から泥だらけで出てきたという、全身が泥々した妖怪だ。
無数の泥田坊を合体して巨大化させると、巨人となった複数の泥田坊を世界中の野に放った。
泥田坊は「田を返せ、田を返せ」と叫びながら、荒涼とした大地に暴風雨を降らせる。
それから数日後、砂塵は吹き飛び、放射能も散り去って空気が澄みわたり、大地には辺り一面の田圃が広がっていた。
人類の生き残りは、地上の安全を確認すると、地下の核シェルターから出て田植えを始めた。
こうして人類は再び稲作を行い、新たな文明の礎を築き上げていくーー。
SF
公開:21/06/12 07:01
二十二世紀 気候変動 核戦争 砂漠化 泥田坊 アグリテック バイオテクノロジー 田圃 田植え 稲作

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容