月と靴

6
4

いつ失くしたのか覚えていないけれど、ずっと見当たらなかった気に入りの靴の片方、靴の右がようやく見つかった。妹の部屋のベッドの下に転がっていたという。妹が靴紐を引きずりながら部屋から出てきたのだった。妹を問い詰めたけれど何も知らないと言う。たしかに片方の靴を盗んで隠しておく理由は彼女にはない。
妹が旅に出た朝に部屋に忍び込んでベッドの下に入って調べてみた。正方形の床板が一枚、色が変わっている。それを慎重に外すと、床下へつづく小さな階段がある。身をかがめて階段を降りてみた。何度も身体をひねりながら降りてゆくと、薄明かりが見えた。小さいけれど家内工場みたいな作業場である。小人たちが忙しそうに働いている。何をしているのだと、近くにいたひとりを捉まえて聞くと、月を修理していると答えた。
彼らの言葉では靴のことを月と言うらしい。妹の秘密のノートを盗み読みしてそのことを知ったのはずっとあとだった。
その他
公開:21/06/10 15:26

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容