雨餅

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雨が降る季節だけ販売するという和菓子がある。
その名も「雨餅」――。見た目は、ぷるぷるとした水餅や、わらび餅、くず餅に似ているが、もっと透き通っていて瑞々しい。
また、新鮮な雨餅は、きらきら輝いて光沢があり、若々しい。
食べると雨粒が弾けるような音がして、口いっぱいに雫が波紋のように広がる。
そして、ほのかに雨の匂いが香る。それが天然ものの証拠だ。
雨餅は、雨粒をコーティングして作るが、その技こそ職人の腕の見せどころで、どのような材料を使うかも含めて門外不出の一子相伝だ。
年間を通じて降水量の多い奈良と三重にまたがる大台ヶ原や、鹿児島の屋久島の雨餅は、ほかの地域よりずいぶん大きい。
雨餅の味も地域によって微妙に違っていて、懐かしい故郷の雨餅を買い求めるひとが多い。
ただ、最近の雨餅は、酸性雨のせいか酸っぱく感じるのが玉に瑕だ。
そこで、雨餅にアルカリ性の黒蜜をかけると美味しく食べられる。
その他
公開:21/06/06 07:06
季節 和菓子 水餅 わらび餅 くず餅 雨粒 波紋 酸性雨

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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