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「もしも」の想像が好きだった。
「もしも空を飛べたら」「もしも大金持ちだったら」「もしもあの子が僕を好きだったら」それは単なる想像でしかなかったが、僕の毎日を楽しませるには、十分だった。
しかしある日、素敵な女性に出会って僕は想像をしなくなった。その女性は僕の話を楽しげに聞いてくれる初めての人だった。
世間の目は厳しい。静かに過ごしたいので田舎に引っ越した。彼女も賛成していて、寂れた街の端に小さな一軒家を建てた。子供も、2人生まれた。

ある日帰ると、家は燃えていた。

やったのはこの国だった。沢山の人間が勝ち誇ったような目で家を見つめる。妻と子供の死体は、その足元に転がっていた。

そこで思い出した。
僕の存在は「もしも」で作られたもので、「if」は「畏怖」になりうること。
涙さえ出ない僕を、人の何千とある目が見下ろす。僕はそこで初めて、想像が現実であることを知った。
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公開:21/06/07 20:10

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