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その森の入口はいくつもあって、どの入口からもひっそりとした小道がつづいている。森林浴には最適だが森に訪れるものたちの目的はそれではない。森を歩いているとふっと口にする言葉が自然にあちこちの地方の方言となるのである。例えばカップルで歩いて男が想いを口にすれば「めっちゃ好きやねん」となる。別に関西出身でなくても大阪の言葉になってしまうのである。しばらく歩いてから女が返事をすれば「でも好いとらんばい」が口を出る。どこを歩けばどの方言になるのか、森林学者は何度も調査分析を行なったが結論は出ない。森のあちこちで北海道から沖縄まで全国の方言が口に出るのは森の気まぐれとしか思えない。愛好者がここを訪れるのは、話し言葉に加えて頭のなかの独り言も方言になるからである。道を歩いて考え事をすると、いろんな方言で考えてしまう。故郷に帰った気にもなるし、旅行気分にもなる。それでこの森の訪問者は絶えないのである。
その他
公開:21/06/07 15:25
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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