出世嘘

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躓いた幼女は涙を堪える。
「ちーちゃん。いたくないよ」
小さな空音はふわふわと風に乗った。
そしてソレは下校中の男の子にそっと溶け入る。
「おかえり…ちょっとその傷どうしたの!?」
帰宅した息子の顔の痣を母親が問い詰める。
「何でも無い!」
ソレは強がりとして吐き出され台所の換気扇をするりと抜けた。
「ほんと奥さんよく似合ってますよ~」
ソレは主婦によりお世辞へと変わり
「はい問題ありません。納期までにはなんとか…」
営業マンによってハッタリへと変化した。
そして人から人へと移りゆく中でソレはだんだん巨大化していった。

街を覆い尽くさんばかりの巨体になったソレは次の宿り主を探す。
警官の取り調べを受け黙秘する容疑者。
年寄りを欺こうと笑顔の悪徳商売人。
公約を掲げ街頭演説をする政治家。
今まさに永遠の愛を誓おうとする新郎新婦。

より大きくなる為に
見定めたソレは静かに動き出した。
ファンタジー
公開:21/06/07 06:00
更新:21/06/07 06:10

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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