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出会ったのは黄昏時の海辺。この島には若い男がいないので一瞬戸惑った。
いつも見かける潮焼けした男たちとは違う、柔らかそうなピンクの肌。初めて触れた指の長さに慄いた。

彼はどうしてこの島に来たのだろう。尋ねると秘密めかして笑い、また明日と思わせぶりに立ち去った。
ああいうのはやめておきなさいよと姉たちは言った。それでも私は浜辺に向かった。触れるのは、指から唇へ。

ある日彼が教えてくれた。人魚の泡を集めていると。
人に恋して、破れて消えるその瞬間の人魚の泡を。
ではあなたは死にたいのね?私がそう問うと、彼は黙って頷いた。
泡を呑む。
人魚の肉を食べて不老不死になった人が死ぬ、たったひとつの希望。
私は彼の目を覗きこむ。疲れ果てた暗い穴。深い。

彼は瞼を閉じて、駄目みたいだなと呟いた。
ええ、まだ恋じゃない。
私は身を翻し沖へ向かう。水を掻く鰭の先から、泡が、ひとつ、ふたつ、浮かんだ。
ファンタジー
公開:21/03/12 00:15

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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