One chan

雨上がりの六本木。
交差点に放置された廃車アートを愉しんでいたら自転車の警察官に声をかけられてそれが事故の現場だと知らされた。
なるほど。血を流している人がいるし野次馬の姿もある。よく吠える犬が大破して繋がった車の上で自分の尻尾を追いかけて遊んでいる。
続々と到着する警察官が規制線を張り、救急隊員がケガ人のもとに駆けつける。
僕は警察官に聞いた。
「これは演劇ですか」
「あなたいい加減にしなさいよ」
まだ若い警察官に叱られて僕は規制線の外に出された。
同じようにつまみ出された若い女性がいて、僕はその人としばらく世間話をした。互いに最近観た映画の話で盛り上がり、その人は僕をお酒に誘った。ワンチャンあるかも、そう頭をよぎったけど、
「わかれ道ね」
その人の言葉に僕は震えた。
車の上ではしゃいでいた犬は忽然と消えて、僕らを乗せた救急車を、僕らはタクシーで追いながら、いつか観る映画の話をしたんだ。