桜鍋

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インスタ映え確実の鍋があると妻に言われ、山奥の旅館へ連れて行かれた。
人に見せびらかす飯なんて邪道だ。道中文句を垂れた私も、現地へ着いて顔がほころんだ。霞けぶる山々は、見渡す限り桜の海だった。
「どんな鍋なんだ?」
「桜鍋。ここの名物よ」
笑う妻に手を引かれ旅館の庭へ。どうやら馬肉らしいが、戸外で鍋とは珍しい。
「まずは桜狩りね」
桜盛りの庭では、土鍋が湯気を立てていた。
なるほど景色もご馳走か。蓋の下は豪華な鍋――と思いきや、見頃の桜に駆け寄った妻が、突然花を摘み始めた。
「貴方も早く。散っちゃうわ」
宿の人に叱られないか?私の不安をよそに、鼻歌まじりの妻は摘んだ花を鍋へ。

「さあ召し上がれ」
熱湯で茹でただけの桜。恐る恐る口をつける。
香る花びらの、どこか懐かしい甘さ。
「食用桜よ。結婚10周年記念」
出会った日と同じ、きらきらした眼。
ありがとうと言いかけ、足りなくて手を伸ばした。
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公開:21/03/08 15:44

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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