廃駅写真家

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無人駅を降りると、駅に不釣り合いな広場と十字に分かれた広い道。かつて大量の人の流れを迎え入れ、送り出していた名残りを感じる。
交差点だったらしい場所には、見上げるほどの大樹。波打つ太い根が、網のように地表を広く覆っていた。根の間にも小さな木があちこち密集し、緑の島を作っている。
早速パシャリ。

でこぼこと隆起して崩れたアスファルトの角に、足を取られないように乗り越える。
窪みに、細く水が流れている所があった。目を凝らすと、さっとメダカの群れが泳いでいった。苔に滑りそうになりながら小川をまたぐ。
木の後ろに骨組みの見える建物。蔓と草に覆われ、割れた窓からは突き出た枝が葉を茂らせている。
歩きながら次々と写真を撮る。

広場に戻ると紫色の蝶を見つけた。苔の水を吸っている。苔に覆われているのは石像のようだ。風化しているが、犬の形をしている。最後の一枚にパシャリ。
僕は満足し、渋谷駅を後にした。
ファンタジー
公開:21/03/07 13:15
廃駅 廃墟 写真 渋谷

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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